避妊だけじゃないピルの種類や様々な効果

『ピル=避妊薬』とイメージされる方が多いと思います。確かに避妊薬として使用されるケースも多いですが、そもそもピルには様々な種類があり、それによって期待される効果は異なります。たとえば、女性の日常生活に支障をきたすこともある生理痛の改善や、ニキビ、PMSの緩和のために使用されるものもあります。
そんなピルは、うまく活用すればあなたの悩みを解決することに役立つかもしれません。
この記事がピルについて皆さんにもっと知っていただけるきっかけになればと思います。
ピルのしくみ

ピルは、卵巣でつくられるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲスチン(黄体ホルモン)という女性ホルモンが配合されたお薬です。
エストロゲンとは女性らしさをつくるホルモンであり、成長とともに分泌量が増え、生殖器の発育やその状態を維持する働きがあります。それに対してプロゲスチンは妊娠準備のためのホルモンであり、基礎体温を上げ、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を安定させたり、乳腺を発達させたりする働きがあります。
ピルを服用することによりこの2つのホルモンのバランスを調整し、脳に妊娠したと認識させる効果があります。脳が妊娠したと認識すると排卵が起きないため、たとえ精子が侵入してきたとしても受精することがありません。
これが避妊薬としての仕組みです。
その他、生理痛の緩和などに使用されることもあります。
排卵が起きないようになると、子宮内膜が厚くなりにくい状態となり、その結果、経血量が減少して生理痛を緩和することができます。
最近では『ピル=避妊薬』ではなく、生理痛緩和などの効果を目的に使用している方も少なくありません。
ピルの種類

ピルはホルモンの配合量によって超低用量ピル、低用量ピル、中用量ピル、ミニピル、アフターピルの5種類に分類され、それぞれに特徴があり、目的によって使い分けられています。
超低用量ピルはエストロゲン含有量が0.03mg以下のものを指します。
主に月経困難症や子宮内膜症等の治療目的で使用されるものであり、避妊を目的とした処方は行われていません。
低用量ピルはエストロゲン含有量が0.05mg以下のもので、販売されている製品が多くもっともメジャーなピルといえるでしょう。
その効果は幅広く、主に避妊や女性ホルモンに関するトラブルに対して用いられますが、月経困難症や子宮内膜症の治療に使用されることも少なくありません。
中用量ピルはエストロゲン含有量が0.05mg以上のもので、主に生理日をコントロールするために使用されています。
また、緊急避妊薬として使用されています。
ミニピルはプロゲスチンのみを配合したピルであり、エストロゲンの作用でリスクを伴うため低用量ピルや超低用量ピルが使用できない人でも、使用することができます。
アフターピルもエストロゲンを含まないピルで、こちらはレボノルゲストレル(黄体ホルモン)を主成分としています。緊急避妊薬として使用され、他のピルとは用途や服用方法が異なります。
同じ緊急避妊薬として使用されることがある中用量ピルよりも利点が多いため、現在最も使用されている緊急避妊薬です。
紹介したそれぞれのピルについて、もっと細かく知りたい!と感じられた方が多いと思いますがそれらは後ほど説明するとして、ここでは比較的副作用が少なく、かつメリットも多い超低用量ピルについて詳しくみていきたいと思います。
超低用量ピルとは?

上記で紹介した通り超低用量ピルは月経困難症や子宮内膜症の治療で使用されることが多く、PMSやニキビの改善も期待されます。疑似的に妊娠している状態にすることで生理が止まり、生理時の悩みを改善する効果があるのです。海外では超低用量ピルにも避妊効果が認められていますが、日本ではまだ避妊薬として承認されていないため避妊目的で処方されることはありません。
また、超低用量ピルにも種類があり、その種類によって期待できる効果が異なります。
超低用量ピルには卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれていますが、このうち主成分として含まれる黄体ホルモンが、各種類によって異なります。
その違いによって、第一世代~第四世代の4種類に分類されます。
それぞれの世代によってどのように効果や特徴が異なるのか世代ごとにみていきましょう。
第一世代

第一世代の超低用量ピルは、ノルエチステロンという黄体ホルモンを主成分としています。
代表的な商品として【フリウェルULD】が挙げられます。
フリウェルULDは出血量が減りやすく月経困難症の治療に優れています。また、服用中は女性ホルモンも安定するためPMSの緩和も期待できます。
ただし、副作用としてニキビを悪化させたり血栓症のリスクを高めることなどが挙げられます。これはノルエチステロンに男性ホルモンを活発化させる効果があるためです。(フリウェルULDに限らずピルの重大な副作用として血栓症のリスクを高める可能性が挙げられます。この血栓症について注意しないといけない点など、別のページで詳しく説明します。)その他には浮腫み、食欲増進があげられますが、それらは一時的なもので服用を続けるうちに1~2か月ほどで落ち着いていくため不安に思われる必要はありません。
基本的な飲み方は、1日1錠を21日間、毎日同じ時間に服用し、その後7日間の休薬期間を挟む28日周期です。毎日忘れず服用することが大切なので服用時間はご自身の飲みやすい時間帯にしましょう。
もし、飲み忘れてしまった場合は気がついた時点で飲み忘れた分をすぐに飲みましょう。その後はいつも服用している時間に当日分を飲むようにすれば問題ありません。
ただし、1日に服用できるのは2錠までなので2日連続で飲み忘れた場合は気づいた時点で前日分のみ1錠服用してください。その後いつもの時間に当日分を服用し、翌日以降は本来の時間通りに1錠服用します。
3日連続して飲み忘れてしまった場合、生理がくるケースが一般的ですのでその時は服用を中止し、生理が終わってからまた新しいシートの服用を始めてください。ただし、婦人科等の医療機関にかかっている場合は医師に相談することをおすすめします。
第二世代

第二世代の超低用量ピルは、レボノルゲストレルという黄体ホルモンを主成分としています。代表的な商品としては【ジェミーナ】が挙げられます。
ジェミーナは含まれているレボノルゲストレルの特性から不正出血が起こりにくく安定した周期を作りやすいため、月経困難症や子宮内膜症の治療に効果的です。ただし、不正出血のリスクが全くないわけではありません。特に服用初期には不正出血がみられる場合があるため、長期間にわたって出血が続いたり、出血量が多かったりする場合は医師に相談しましょう。
副作用としては胸の張り、軽度の吐き気、頭痛、下腹部の痛みがあげられます。特に服用初期や、他の薬からジェミーナに変更したときに副作用がみられることが多いですが、ほとんどの場合1~2か月程度で症状が落ち着くので安心してください。長期的に症状がみられる場合は医師に相談しましょう。また、不正出血が見られることがあるほか、血栓症のリスクもあります。
ジェミーナには服用方法が2種類あり、一つはフリウェルULDと同じく1日1錠を毎日同じ時間に21日間連続で服用し、7日間休薬する28日周期で服用する方法です。もう一つは1日1錠を同じ時間に77日間連続で服用し、7日間休薬する84日周期で服用する方法です。
84日周期で服用する場合は3か月に1回しか生理がこないので、毎月の生理が憂鬱な方やイベント等で生理周期を調整したい方におすすめです。特に、月経困難症や子宮内膜症でお悩みの方は医師の判断により84周期で処方されることが多いです。
ジェミーナも毎日忘れずに飲むことが大切で、飲み忘れた時の対応についてはフリウェルULDの時と同じです。
第三世代

第三世代の超低用量ピルは、デソゲストレルいう黄体ホルモンを主成分としています。代表的な商品としては【マーシロン】が挙げられます。
マーシロンは第一、第二世代に比べると副作用の原因になるエチニルエストラジオールの含有量が少なく、副作用が起こりにくいといった特徴があります。ただし、フリウェルULDやジェミーナとは違い、国内未承認の薬であるため注意が必要です。
効果としては発痛物質であるプロスタグランジンの過剰生産を阻止することによる生理痛の軽減や、男性ホルモン活性を低減させることによるニキビ・多毛症の改善があげられます。
効果としては発痛物質であるプロスタグランジンの過剰生産を阻止することによる生理痛の軽減や、男性ホルモン活性を低減させることによるニキビ・多毛症の改善があげられます。
また、排卵の抑制・精子の侵入防止・着床の予防といった作用があり、避妊効果が期待されますが、国内では超低用量ピルの避妊薬としての処方は行われていませんので、この点も注意が必要です。
副作用としては、頭痛や吐き気、胸の張り、下腹部痛などの症状がありますが飲み初めにみられることが多く、数か月継続して服用することで軽減することがほとんどです。長期的に症状が継続する場合は医師に相談するようにしましょう。他にも血栓症、不正出血といったリスクは否めません。
また、激しい下痢や嘔吐といった症状が続く場合は、薬が吸収されにくくマーシロンが体に合ってない可能性があるので、その場合はすぐに医師に相談することをおすすめします。
マーシロンにはマーシロン21とマーシロン28があります。
どちらも1日1錠を毎日同じ時間に服用し、21日間服用した後7日間休薬します。
マーシロン21とマーシロン28の違いは、休薬期間に服用する「偽薬」です。
マーシロン28の方には偽薬(プラセボ錠ともいう)が同梱されています。
休薬期間中は薬を飲まないようになってしまうため、次の服用タイミング(休薬明け)に服用することを忘れてしまいがちです。
こういった飲み忘れを予防したり、薬を飲む習慣を維持するために使用されるのが偽薬なのです。
飲み忘れる可能性がある方はマーシロン28の方を使用する方がよいでしょう。
飲み忘れた時の対応は他と変わりませんが、避妊薬として服用する場合は飲み忘れから24時間経過すると避妊効果が減退するため一度服用をやめて生理を待ち、生理が終わってからまた新しいシートを飲み始めるようにしましょう。
第四世代

第四世代の超低用量ピルは、ドロスピレノンという黄体ホルモンを主成分としています。代表的な商品としては【ヤーズ】が挙げられます。
他のピルよりも副作用が起こりにくく、初めてピルを服用される方におすすめです。効果としては月経困難症やPMSの改善が期待されます。また、休薬期間が短いことから体内のホルモンバランスが崩れにくいため、むくみや肌荒れなどの症状が起きにくいといった特徴があります。
副作用が少ないとされるヤーズですが副作用が全くないということではありません。ピルを服用することによるリスクとしてあげられる血栓症や不正出血にはやはり注意が必要です。他にも眠気や食欲増進というような副作用があげられますが、これらは飲み始めの一時的なものであり、個人差があるため気になる方は医師に相談しましょう。
先ほどヤーズは休薬期間が短いとお話ししましたが、そのため他の薬と少し飲み方に違いがあります。
28日周期という点は同じですが24錠の実薬と4錠の偽薬が1シートになっており、実薬を1日1錠、毎日同じ時間に24日間服薬し、その後4日間を休薬期間として偽薬を1日1錠、毎日同じ時間に服用します。
飲み忘れた時の対応は基本的に他と変わりませんが、飲み忘れてしまったのが休薬期間中の偽薬である場合はそのまま飲まずにとばしてしまっても問題ありません。
超低用量ピルといってもこのように様々な種類があり、それぞれにメリットやデメリットがあることが分かったと思います。自分自身の悩みや期待する効果を考え、自分にあったものを選んで服用するようにしましょう。またここで記載している効果や副作用はあくまで可能性を考慮したものであり、それぞれに個人差があることをご理解いただければと思います。
まとめ
ここまでピルのしくみや種類、その効果や副作用等を紹介してきました。
女性特有の悩みを解消するためにピルを一つの選択肢として考えてみていいかもと思われた方もいるのではないでしょうか。
海外でのピル普及率をみるとアメリカ13.7%、イギリス26.1%、フランス33.1%、韓国3.3%、タイ19.6%、日本2.9%というように日本での普及率は著しく低いことが分かります。入手するためのハードルが高かったり、ピルへの理解が遅れていたりするというのが現状です。しかし、ピルのメリット・デメリットを理解し、注意点に気を付けて正しく服用することができれば、自分の身体を守るための強い味方になることでしょう。